福岡高等裁判所 昭和40年(ネ)357号 判決 1965年9月20日
主文
本件各控訴を棄却する。
控訴費用は当事者双方の平分負担とする。
事実
一審原告代理人は、原判決中一審原告敗訴部分を取消す、一審被告は一審原告に対し原判決末尾目録(三)の建物を収去して同(二)の土地を明渡せ、第一、二審の訴訟費用は一審被告の負担とする。一審被告の控訴を棄却するとの判決を求め、一審被告代理人は、原判決中一審被告敗訴部分を取消す、一審原告の請求を棄却する、第一、二審の訴訟費用は一審原告の負担とする、一審原告の控訴を棄却するとの判決を求めた。
事実及び証拠関係は、一審被告代理人において「一、一審被告は一審原告に対し、本件売買契約と同時に金八万円、昭和三十七年七月十一日金三千円を支払い、また同年八月より昭和四十年七月迄毎月金三千円宛、同年七月十二日金七万円を弁済供託し、売買代金二十五万八千円の支払を完了した。
二、かりに、所有権移転登記は代金完済後になし、また右完済前は建物その他工作物の築造をしないという特約があつたとしても、右のように売買代金の支払を完済したのであるから、一審被告には本件所有権移転登記を抹消し、工作物を除去する義務はない。」
と陳述し、証拠として乙第六号証の三十三ないし三十六を提出し、一審原告代理人において、右供託の事実は認めるが、売買契約解除後の供託であるから弁済の効力は生じないと陳述し、右乙号証の成立を認めた外ここに引用する原判決事実摘示と同一である。
理由
当裁判所の判断は左記のとおり訂正補充する外ここに引用する原判決理由の記載と同一である。
一、原判決五枚目裏二行目中「ない甲第」の次に「二号証の一、二、三、第」と挿入し、同六枚目表六行目中「工事にかかつたこと」とあるを「工事をなし、家屋建築に着手したこと、一審原告は間もなく右登記及び工事の事実を知り、人を介して右登記を抹消し、改めて仮登記をなすこと及び右工事を中止することを一審被告に申入れたが理由なく拒絶されたこと、そこで一審原告は昭和三十七年八月二日到達の書面により一審被告に対し右約定違背を理由に本件売買契約解除の意思表示をしたこと」と訂正する。
二、原判決六枚目表十一行目より同裏二行目までを左のとおり訂正する。
「右登記及び工事に関する前叙認定事実は単に売買契約の約定に反するだけでなく土地の買主である一審被告の著しい背信行為であり、一審原告はこれにより契約の解除権を取得したものと認めるのが相当であるから(若しこの解除が、許されないとするならば、被控訴人は、控訴人の前示重大な契約違反の事実を、そのまま忍受しなければならぬという極めて不合理な結果となるから)本件売買契約は右意思表示により解除されたものというべく、その後一審被告主張のように売買代金相当額の金員の弁済供託があつたとしてもそれは、信義則に従つた債務の履行ではないばかりでなく、契約は解除により既に失効しているから右弁済供託によつては既に生じた解除の効力を左右しえない。
そうだとすれば、本件(二)の土地は一審原告の所有であるから、一審被告は一審原告に対し本件所有権移転登記を抹消し、(四)の工作物を収去する義務がある。」
三、原判決理由二を削除しこれを左のとおり訂正する。
「原判決末尾目録(一)の地上に同(三)の建物が存在することは当事者間に争がないが、成立に争のない乙第七号証の二、原審における一審被告本人尋問(一回)の結果及びその結果及びその結果により成立を認めうる同号証の一、原審証人深堀ヒデの証言によれば、右建物は、一審被告の母ヒデが、その敷地を一審原告より賃借し、一審被告名義でこれを建築したものであるが、昭和三十五年頃一審被告が改めて一審原告よりその敷地を賃借したものであることが認められ、他に右認定を左右しうる証拠はない。従つてその建物が一審被告の所有であるとしても、右賃貸借が存続する限り、本件売買契約が解除されたとしても、一審被告がその敷地を使用する権限に何等消長はないから、右(三)の建物収去土地明渡の請求は失当として棄却すべきである。
よつて原判決は結局正当であり、本件各控訴はいずれも理由がないからこれを棄却し、当審における訴訟費用は各当事者の平分負担とし、主文のとおり判決する。